大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和34年(ワ)7107号 判決

原告 西田喜一

被告 株式会社大沢商会

主文

1、被告は、原告に対し、別紙目録〈省略〉記載の不動産につき東京法務局新宿出張所昭和三四年七月一〇日受付第一六〇三四号抵当権設定仮登記の抹消登記手続をせよ。

2、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、請求の原因として、

一、原告は昭和三四年七月五日別紙目録記載の建物(以下本件建物と称する。)を訴外窪田アヤ子から買受け、同月六日東京法務局新宿出張所受付第一五七四四号をもつて、所有権移転登記をした。

二、被告は、昭和三四年七月九日本件建物について東京地方裁判所がした仮登記仮処分命令にもとずいて、主文第一項掲記の仮登記をしている。

三、被告の仮登記申請が受理されたのは、原告の所有権移転登記申請が受理された後であるから、被告はその仮登記にもとずく抵当権の取得をもつて原告に対抗できないものといわなければならない。従つて、原告は被告のした仮登記の抹消登記手続を求める。

四、なお原告の所有権移転登記が現実に登記簿に記載されたのが被告の仮登記が登記簿に記載された後であつたことは認める。

と述べた。〈立証省略〉

被告訴訟代理人は、「1 原告の請求を棄却する。2 訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、「請求原因第一項のうち、原告がその主張のような登記をしていることは認めるが、その余の事実は争う。同第二項は認める。原告主張の所有権移転登記が現実に登記簿に記載されたのは、被告の仮登記の登記簿記載の後であるから、被告の仮登記はなんら原告の登記と牴触せず、原告の請求に応じなければならないいわれはない。」と述べた。〈立証省略〉

理由

本件建物について原告のためにその主張のような登記がされており、被告のために原告主張のとおりの抵当権設定仮登記がされていることは当事者間に争いがない。

そして、成立に争いのない甲第二号証によれば、本件建物は、昭和三四年七月五日原告が訴外窪田アヤ子から買い受けたものであることを認めることができ、この認定を覆えすに足る証拠はない。

本件建物についての原告の所有権取得登記がその登記所における受付順位の先順位にかかわらず、被告の抵当権設定仮登記に遅れて登記簿に記入されたことについては当事者間に争いがない。そこで、同一不動産につき登記簿上に区を異にして相牴触する登記がされているとき、その何れを優先させるかは、その受付の順序によるべきか、記入の前後によるべきか考えて見るに、法が登記制度を採用し、不動産に関する物権変動は全て登記簿にこれを反映せしめることにより、不動産取引関係を規整する趣旨からみると、物権変動の効果を主張するためには、単に登記官吏によつて登記申請が受理されたゞけでは足らず、登記簿にその旨の記載がされなければならないことはいうまでもないところであるから、登記簿の記入の前後が登記の順位を決するについて意味をもつとすることも一理なしとしない。

そして、登記官吏は登記の受付番号順に登記簿の記入をするよう法律上要請され(不動産登記法第四八条)、通常の場合においては、これによつているから問題はない。しかしながら本件のように受付番号の順序に従わず登記簿の記入がされていることは異常の事態というべく、かゝる場合においてまでも、右の理を貫くとするならば、受付番号が後順位のため本来ならば劣位の者が、登記官吏の過誤という違法かつ偶然の事由によつて受付番号が先順位の本来ならば優位の者に優先し、思はぬ僥倖をうるという法の予測しない事態を惹起することになる。しかも、その後該抵当権につき取引関係に立つ第三者は登記の受付番号の順序を判断の基準とするをえず、登記簿に記載のない登記事項記入の先後を確認したうえでなければ安心して取引の列に加わるをえないことになる。このようなことは、一般第三者にとうてい期待するをえないことであり、したがつてそのようなことを期待することは不当なことであるといわなければならない。

以上のとおりであるから、不動産登記法六条一項にいう登記したる権利の順位は登記の前後に依るというのは、受付番号の順序によることなく別区になされた相牴触する登記の優劣の決定については、その登記の登記簿への現実の記入の前後によつて決すべきでなく、その受付番号の順序によつて決する趣旨と解するを妥当とすべく、この解釈は同条二項が格別の例外を規定していない趣旨にも叶うところである。

被告は、訴外窪田との間の本件建物に対する抵当権設定契約に基づき東京地方裁判所より抵当権設定仮登記仮処分命令を得て、これが仮登記を経由したものであるけれども、右のように登記の優劣はその受付番号の先後によつて決せられるべきものであるから、被告の仮登記は原告の所有権取得登記と牴触し、かつ、これが劣位におかれることゝなり、被告は原告に対して本件仮登記にもとずく抵当権をもつて対抗できないこととなるわけあいであり、したがつて、右仮登記を抹消すべき義務があるといわなければない。

よつて所有権にもとずいて抵当権設定仮登記の抹消登記手続を求める原告の本訴請求は理由があるとして認容し、訴訟費用について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小川善吉)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例